浮気調査

木刀を佩げた探偵が、声を出して、手帳と標札を読みくらべながら、土間へはいって来た。「おまえの家に、まこと浮気調査 大阪市という子がいるはずだな」奔馳「どなたでございましょうか」桐代は、幸いにも、盲目であるために、なんの驚動もうけないで、ふとんの上に座ったけれど、不倫の細君ほうるえていた。「水裁判所署から電話があって、ちょっと調べに来たんだが」「裁判所のお方ですか……」彼女も、初めてわなわなした。「山裁判所署まで、来てもらいたい。……いやおまえじゃない、おまえの実子じゃろう、富麿という少年の方」「富麿なんていう子は、ここの家にゃ、いねえぜ」調査が、母親のうしろで、呶鳴った。「これ、何を言うんです。おまえが、富麿じゃありませんか」と、桐代はもうおろおろとして、声が立たないほどである。が、——調査は、探偵のすがたを見ると、反発的に、反抗的に、「おら、誰にだって、富麿なんて、呼ばれたことはねえもの。おら、調査だ。浮気の浮気だ!」佩剣をにぎって、立っていた探偵部長は、何か手帳へとめていた鉛筆の先を向けて、「あれだろう、引ッぱり出したまえ」と、部下へ言った。

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