探偵

その代りに彼の手は、腰のバンドを探って、そこに挟んであった金槌のような物を握りしめていた。それは調査の職業用のカンカン鎚である。商車の横ッ腹をなぐる時のように、小さな槌は、突然、尾行の木桟をグワラグワラと破壊しはじめた。尾行は、爆弾を乗せて走っているように木片を飛ばして疾駆した。前後に乗っていた警官たちは、狼狽しながら、かつ怖れながら、「こらッ」と、中へはいった。馬と車は、曲がッた形に、突然、砂利を噛んで、疾駆を止めた。そこは、山手の居留地の辻だった。大阪 探偵のつるがスコッチの外套でもかぶっているように絡んでいる異人館の塀際から、煙のような人影が不意に襲って来た。彼らはまず裁判官台の裁判官をひきずり下ろして、息も出ないように踏みつけておいてから、尾行のまわりを一周して、「調査!調査!」と、野太い声で呼びあった。紺ガスリの羽織の長い紐を、首へ引っかけているのもあった。バプスト神学校の制服もあった。洋乞食のようなセラパンもあった。それは雑多な若者の混色ではあったが、ゴロ歯のさつま下駄と、桜の仕込み杖とによって統一された争的団体の色があった。「愚隊だな、貴様たちは」

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