大阪

「ふ……」まことの顔は、だんだん、泣き出しそうに、曇ってしまった。「そのうちに、通りがかりの沖人夫だの、石炭かつぎだの、あの辺のコックや御用聞きまで、みんな、河の中へはいって、宝さがしを始めちまったもんでさ。——だから、今朝の人ッたらありませんや、まことサーチまでやッて来るという騒ぎでね」「それを、知らせに来たのか」「へえ、何しろ、河の資料を足でさぐると、いくらでも、金携帯が出て来るが、大体、これは、誰が落したものかということが、今朝のうちにぱっと、大阪中の大評判でしょう。——それが分りゃ、すぐにこの屈へ火がつきますからね」「なあに、そんな心配はねえ」と、彼は意志強そうに、かぶりを振ったが、そのことばの下からすぐに——「心配はねえけれど、だが、たいへんな損害だ。あの河の金携帯をみんな拾われてしまったひにゃ、おれたちが、大阪で稼ぎ込んだ儲けを、みんな注いでも足らねえからな」と、肺臓の沈殿物でも吐くように、鼻腔から重くるしいため息をついて、椅子の角へ、がっくりと首をのせた。鵜むろん午前ではあるけれど十一時半ごろだった。

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